投稿日:2009-11-03 Tue

今までの作者の作品やエッセイとかから、
本好きミステリ好きそしてちょっと皮肉好き、
というイメージがありました。
この本はそのイメージどおりの直球勝負。
本が好きでミステリが好き、という気持ちと魂が
こもってるなあと感じました。
学資が続かず伯父の古本屋に居候して日々を暮らす主人公。
とある日、その古本屋を訪れた女性は、彼に小説を探してくれないかと
頼んでくる。
破格な報酬につられて始めたその「探偵業」を進めるなかで、
彼は自分とその小説を書いた作家の半生ととある事件も追うことになっていく。
…合間合間にその探索され見つけられた小説が挿入されていて、
しかもその小説はリドルストーリー=結末のない話。
さらにそのあるはずのない結末がまた別に存在していて、章をかっちりと締めます。
実に、凝りに凝った構成。本好きミステリ好きの面目躍如ですね。
その小説そのものの古風な文体が醸し出す独特な雰囲気と話そのものの
面白さも十二分で中身をより濃くしています。
そしてもちろん物語全体を通してのストーリーにも「真実」が埋められていて、
五断章すべてを追った後に浮き上がったその姿は、
とても哀しいものではありますが、込められたその想いの温かさと深さには、
じわじわ、しんしん、と静かに心に沁みていくものがありました。
なんてまだるっこしいやり方だろう、
なんてどこまでも素直になれない人なんだろう。
そう苦笑を覚えながら想いつつ、「らしい」とも感じたのです。
主人公自身の行き詰まったような閉塞的な感情や身近な絶望は、
多少生き苦しくも感じたので、ちょっともっと元気出せよ、もう!と
思ったりしました。
彼の行動をおそらくはもうそれしかないとわかっていた道を取らざるを
得なくなる過程だと思い返して読んでみれば、
「ボトルネック」を思い出す甘くない描写だと感じました。
人生は、青春は、たまにあまりに厳しい瞬間、選択がある。
きりきりとそう思わされたのです。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌
投稿日:2009-10-24 Sat

この作者といえば「少女」です。
私には、そして多分いろんな方々にも
そういう印象が強いはずです。
そして、この作品はその少女を
これでもか、と描ききったお話だと
思えたのでした。
冒頭に示される一つの新聞記事。
それは少女の死体を少女が見つけたと伝える記事です。
そのふたりの少女が、だれと、だれなのか。
それはあっけなく示されて、
どうしてそうなってしまうのか、
それすらもわりと序盤で勘付けます。
だからコミカルなやりとりなのに常に感じるのは、緊張感です。
その結果へと突き進んでいく、どうしようもないそんな哀れな結末に
向かっていくふたりの姿が、ひりひりとちくちくと心を刺していきます。
どうしようもなく、他のすべなんて知らなくて、
彼女たちは彼女たちの知る「弾丸」をもって日常をたたかっていくしか
なくって、たとえそれが大人にはなんの効果も与えられなくっても、
そんなやり方しか知らなくて。
それが辛くて哀しくて可哀想なのですが、
けれど生き様は、弾を打ち続ける生き様それ自体は、
惚れ惚れするほどにカッコよくて可愛い。
その矛盾する面を抱える彼女たちは、だからこそ、とても魅力的です。
こんな「少女」っていう存在は、リアルとは違うのかもしれない。
けれどこんな純粋で脆い刃しか持たない「魂」は、
かつてわずかにでも持っていたかもしれないもので。
そしてもう持てないと知っているもので。
だからとても儚く、美しく、感じて、
たまらなく素敵に思えたのでした。


角川文庫のこの作者の本の表紙はどれもとてもステキv
投稿日:2009-10-20 Tue

作者の作品は「向日葵の咲かない夏」から
始まっていくつか読んできましたが、
とりわけ「向日葵」が異色だったんだと
他の作品をいくつか読んで思いました。
やっぱりアレは、
最初に薦める作品ではない…
そういう思いを強くする今日この頃。
この作品は、ちょっといわくありげな私立探偵が主人公。
超能力的な「聴力」を使って彼は探偵業を営んでいて、
莫大な報酬を餌にとある企業の潜入捜査に臨む。
ところがその最中に殺人事件が起きて……、と
ある意味至って普通に物語は進みます。
どこか、どこかがオカシイ感じがする。
そういうちくちくした感覚を持ちつつも。
なにが、ではなくて、文章の端々から見え隠れする、けれど
ちっとも意味はわからない出来事や物事の瑣末な部分が
じわじわ残ったままで、やがて終盤に向かって繰り返される、
意外な展開の連打。やっぱり騙された、と悔しさよりも得られるのは満足感。
この作者ならこうでなくては、という。
その展開そのものは大衝撃、ってほどのものではないにしても、
軽快な手さばきの手品を見せられているような、
とてもさくさくっとした印象の「真実」でした。
扱っているテーマ自体はけっこう深みがあり(シャドウでもそうでしたが)
けれどそれすらも騙すための小道具としているところがあるので、
作者に掛かるとすべての物事がミステリの仕掛けの一部分となってしまいそうな、
そういう感覚を抱いたのでした。
それは悪い意味ではけしてないんですけど、
「どんでん返しを必ずやってくる作品」だという前意識そのまま、そしてそれだけな
話になっているところもあって、もっと違ったニュアンスが欲しいなあとも思います。
贅沢な話ではありますけど。
この話はそれほど、というかほとんどドギツイ部分はないので、
薦めやすいのは確かなんですが、……作者ならでは!の色がそんなないので、
最初の一冊、には向かないかなとも思いました。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌
投稿日:2009-10-10 Sat
何を隠そう、「ペンギンプルペイルパイルズ」、の倉持さんの作品が大好きな私。
今年の春公演は大阪へ来てくれなくてガッカリで…
ppppの作品を放送してたシアテレもあんなことになっちゃうし…(恨)
けれど!というか、だからこそ!、この作品、「ネジと紙幣」を
楽しみにしてきました。
「女殺油地獄」という世にも怖ろしげな題名の古典を下敷きにしたこの作品は、
けれどもとても現代的な感覚のまますんなりと受け止められるように描かれていて、
実にストレートに私たちの頭の中に登場人物たちの叫びが突き刺さってきます。
それはもともとの原作で描かれていた「人の愚かさ」みたいなものが普遍的なものだと
いうことなのか、それとも倉持氏の脚本の手腕なのか、
古典未読な私には判断つけられないですが、
とにかく、複雑なプロットも大どんでん返しもないですが、凄まじい「重さ」を
観劇後に残していってくれました。
軽妙な会話から幕をあげる物語。
コミカルなやりとりに、知らずその舞台世界の中へと連れ込まれていきます。
効果的に使われる花火。行人と桃子の本音で気さくな「仲良し」の会話。
一転。
古めかしい工場。攻撃的な若い娘と無口な雇われ青年の会話。
そして青年をなぶる行人。その小癪な「頭の悪さ」がいやにリアルです。
スライドして工場から続きの家の居間へ。このセットはなにげにスゴイ。
家族の会話が続く。
謝る行人、許す義父、訝る母、距離を置く妹。
家族なのに、皆何かを押し殺している。その気まずさが緊張感を保つ。
そして長男の登場で、……一気に物語は進む、奈落へと。
ここでの義父と行人の喧嘩はおそろしく派手で、
そしてずっと背中を向けていた義父の怒りようが繰り返しますがリアルで、
ぞっとするほどでした。
怒っている、これまでにないほど怒っている!
それをまざまざと心の底から思わされたのでした。
たったの1時間も経っていない舞台上での演技演出だけで。
すごいことだなとまた同じことを繰り返して思ったのです。
そしてここからは墜ちた行人が、桃子を殺すに至るまで。
ある意味静かともいえるシーンが続き、
親たちの捨てきれない「愛情」が現れた場面でふと気持ちがほぐれたのも
つかの間、あまりにも情けない理由で、終わりがやってきます。
その愛情を愛情と受け取りもせずに紙幣にすがりついて。
それは、それはもう。
あまりに哀れで、軽々しくて、本当っに愚かで馬鹿で、情けない、の一言で。
あんたもう終わってるわ。
桃子の投げかけた言葉は本音で本気なのでしょうが、
だからこそ私はどうにかしたかった、というのも裏の本音として響いてきました。
直前までの仲睦まじいともいえるやりとりが、あまりにのどかだったのが、
たまらなく哀しさを煽りました。
本気で格闘しもつれ合い、洗濯物がいつの間にか血に染まりゆき異常さを盛りたてて、
そして桃子は殺されてしまいます。
こんな結末。
こんな物語。
残酷の一言で、辛くて悲しくて重いです。
手を洗い続ける行人がなぜそうしているのか、
少しでも罪を感じてそういうことをしているのか、そう考えるのはちょっと
彼を甘く…フツウの人間として見すぎなのかもしれません。
彼はとことんまでに最低、なのですから。
…話としてこんなにしんどい感覚を後に残されたことはそうそうありません。
けれど、眼を離せない引力がすごくて、そしてイヤではなかったのです。
倉持さんの力、森山さんともさかさん始めとする役者さんたちの力、
それによって「見たくないものでも見ざるを得ない」とさせられてしまったのでしょう。
怖ろしいかな…芝居って。
だから良いのですけど。
大満足でした…!


そしてねじキューピーを買って帰る私。かわいい…。
投稿日:2009-09-23 Wed

…ある日、イケメン男子が落ちてきた!?
と、なんともキテレツなスタートから始まる物語は、
やっぱりやっぱり期待通りに、
甘くて素敵な恋物語となってました。
毎度ごちそうさまです。
独身OLの主人公が家への帰り道に出くわしたのは、
落ちて…行き倒れていた「けっこういい男」な青年。
「拾ってやってくれませんか?」
屈託のないその言葉に、ついうなずいて始まった同居生活。
歩く植物図鑑で完璧な主夫っぷりでお役立ちのその青年に、
彼女はやがて自然と恋心が芽生えていくけれど…。
そんな筋立てで、野草めぐりと恋模様をサクサク楽しめる一冊です。
身近に眼にしている植物からきっと見過ごしている地味なものまで、
さまざまな雑草たちが名前を明らかにされ料理されていく過程そのものも
かなり楽しかったです。
それに絡ませて進む二人の関係の変化もまた、楽しかったし、
美味しかったです。
作者の描く恋愛模様って、とってもストレートに甘さ全開なものだから、
こっぱずかしさは常にあるんですけど、
なんだかそれがやめられないとまらない?感じというか。
変に気取ってたり隠してたりドロドロしてなくて、常にその気持ちそのものを
ダイレクトに描いているのが、魅力的なのかなあと思えたりします。
主人公はもうイイ歳で、それなりに経験も重ねてきているけれど、
恋してしまうとやっぱりこんなに純粋に(幼くも)なってしまう、っていうのは、
わかるような気がします、うん。こういう部分はオモテに出す出さないは
あるでしょうけど、必ず大人になっても持ってるもののはずです。多分。きっと、
そして両思いになってからの、さらっと忍ばせてある艶っぽい一文や一句なんかが、
なんだかとてもエロティックだなあと…。
変に過剰にしてたり婉曲じゃないからリアルなんですよね。
この辺の加減は作者が女性だからだなあと感じるところでした。
と語ってるほうもなんだかこっぱずかしくなってきたところで。
野草料理もチャレンジしたいなと思いますよ(とってつけたようですが)。
ツクシのおひたしは小さい頃食べましたし、ノイチゴも食べたしヨモギも食べたはずです。
イタドリは本当にどこかにまぎれて生えてそうなので、
ぜひ探してみたいです。


「いただきます」のある食卓の幸せ、って大人になってしみじみ実感……。
△ PAGE UP

