投稿日:2009-11-23 Mon
見たあとはなんともイヤーな感じが残っていた、「陰獣」。
その感じそのものは嫌いなものじゃなく、
むしろ好きといえなくもないいやらしさだったのですが、
…まさか賞を取ったり映画になったり、っていう展開は思ってなかったなあ…。
さてさてそして今回、第2回公演の「印獣」です。
まさかまさかの三田佳子様をお迎えしての公演!
初めて聞いたときはいろいろな意味でええーっ、てなりましたよ。
それは彼らの「ノリ」と三田佳子という女優の「ノリ」が、まったくもって沿わない、
そう思ってたからですが。
本当に、本当に良い意味でそれは裏切られてくれました!
お互いがお互いに「沿う」ように、いやむしろ、
三田さんのほうが積極的に、クドカンのホンに三銃士のノリに寄り添ってきてくれて、
体当たりしてパワフルにひとつの舞台を作り上げておられましたよ。
まさに大女優、という魂をまざまざと感じました。
2列目という幸せな位置でしっかとその美しさと気品をびしびし浴びてきました。
素敵でした…。
物語は自称大女優の屋敷の地下室で繰り広げられます。
お互い見識のない三人の作家が半強制的に呼び寄せられ、
「自分の自叙伝を書き上げたら印税を差し上げます。印税生活をしてみませんか?」
とその無名女優から持ちかけられる。
ありえないと抵抗しつつもちらつかされたその莫大な金額にそそのかされて、
彼らは彼女の半生をでっちあげていくのだが、
……そこから始まる、喜劇と悲劇と、狂気の世界。
始めは笑いながら、次第にぞわぞわさせられながら、
そして最後は、イヤーな感じを残されて。
という流れそのものは、陰獣と似たような感覚だったように思えますが、
よりこちらのほうがスピーディな展開で、さらに、深い「業」のようなものを感じました。
当人は忘れ果てていても、
他人は忘れることのできない出来事がある。
そしてそれによって、思いがけずに人生を狂わされることだってあるのだ、
と考えると、そこはかとなく背筋を寒くさせられたりもしました。
……
しかしこの舞台の肝はやはり三田さんなのでしょう。
彼女ありきの、彼女のための舞台。
だって小学生からセーラー服から被り物まで、なんだってこなしてしまってましたから!
ありえない、それこそが一番この舞台でありえない!!
けれどあった! そこがもう、ただ、スゴイなあと…。
あとは初見だった上地さんのインパクトもなかなかのものでした。
すっごい沖縄弁でした。わかんねー! けど、面白いからよし!
岡田さんも狂言回し的な役柄で巧く舞台をかき回していて存在感があり、
語るまでもなく当たり前に巧いお三方とともに、
皆さんがそれぞれの役目をこなしきっていて、実に濃い時間を過ごせました。
楽しかったです!
あれだけドロドロで後味悪げなお話だったのに、
一言でいうとやっぱりその言葉に尽きますね。うん、観に行けて良かった。


投稿日:2009-11-15 Sun

「一年死ぬのを待てたなら、
ご褒美をあげます。」
この言葉、
どこか甘美な響きを持つといったら、
ちょっと危険なんでしょうか?
…けして破滅志向があるわけじゃないですが。
ただ、主人公と重なるところがあって、
わかってしまう部分もあったのも確かでした。
本多さんの作品といえば、特に初期のものですが、「死」を身近に扱っている、
という印象が強いです。
その扱いも、大事なものとして丁寧に扱われていて、過剰に前面に押し出したりはしないで、
ひっそりと、けれど細やかに描かれていて、
しんしんと心に積もっていくような感覚がありました。
最近のいくつかの作品は、そこからは少し離れてしまったかのような印象があったのですが、
今作は、その「死」をまたきわめてまっすぐに扱っていた作品でした。
そしてそこからは、「生」の美しさがしっかりと透けて見えて描かれてもいたのです。
素晴らしかったです。
死を決意した女性がご褒美をもらうために生きることを決意した一年。
連続する毒による自殺事件を追う雑誌記者の追跡。
交互に展開する物語は、ときおり軽妙に(このあたりは最近の作者っぽいなと思いました)、
テンポ良く進んでいき、その先がだんだんと見えてくるにつれ、
彼女の思いの変化にきりきりした焦りみたいなものを感じていくのですが、
ですが、の展開で。
やられた、と思いました。
まったく勘付かなかったわけでもないんですが(整合しないところがあからさまに)
けれどこの返し技はお見事の一言で、かつ、すっぽりとすべてが綺麗に収まる、
素敵な「嘘」だったと思います。
なんのために生きてるのかわからなくなる一瞬はふとしたときに訪れて、
つい「死にたい」と洩らしてしまうことはあるでしょう。
その言葉にさほどの重さはなくとも、そう感じるひとときがある人ならば、
彼女に共感できる部分はあるんではないでしょうか。
そして彼女の遭遇していく出来事に行動に同じように泣いたり笑ったりしていって、
「この世界を愛せる」ようになっていくでしょう。
その過程がとても自然に描かれていて、ただたださりげなく巧いなあと思うのです。
終盤、ため息のように彼女が漏らした未来への愛おしさの言葉には、
ただ涙、でした。
…作者の物語のなかで、一番好きな作品になりました。


投稿日:2009-11-08 Sun

最近この作家さんの作品をいろいろ
読んでるんですが、 この作品は
ちょっと毛色が違って、戸惑いました。
なにこのユーモア!?
なにこの青春!?
きっとウラがあるに違いないと思いつつ
読み進めました(なんか失礼な)。
おとなしめな大学生の主人公がその同級生たちと突然に遭遇した事件。
それは幼い友達が突然道路に飛び出した愛犬に引っ張られて、
車に跳ねられて死んでしまうという悲惨な事故だった。
なぜ、忠実な愛犬は主人の制止を聞かずに飛び出していったのか?
それを追う内に主人公はひとつの疑惑を抱いていく…。
……とけっこうストレートでシンプルな謎を追っていくストーリー、ですが、
取り巻くキャラクタたちがなんだかちょっと、異質。
キャラクタというよりかはその会話、かもしれませんね。
序盤からやたらとコミカルなやりとりが続き、
探偵役の教授の描写に至っては面白くて強烈なんだけれど、
それでいいのか道尾先生!?的な妙なそぐわなさを感じていて、
ずっとなんだか背中がもぞもぞした感覚でした。
絶対になにか、どんでんがえしが当然、あるわけだから。
暢気に真正面にこの展開を愉しんでたらしっぺ返しが来る…と
妙な構え方をして読んでました。
合間合間に挟まれる喫茶店のパートがなんだか暗示的でしたし。
でも、しかし。
確かにどんでんがえしはあって素直に驚かされたのも確かなのですが、
今までの作品対比からして爽やかともいえる結末で、
普通に青春ミステリでした。
安心したような拍子抜けしたような。うん、面白かったのは確かですよ。
教授のキャラクタも良かったので、また別の作品で見たいなあとも思いましたし。
・・・ただどこかもったいない感覚が、物足りない気持ちが残っているのも
事実ですね…。毒がやっぱりそれなりにあったほうが、らしいのかなとも、
そうも思います。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌
投稿日:2009-11-03 Tue

今までの作者の作品やエッセイとかから、
本好きミステリ好きそしてちょっと皮肉好き、
というイメージがありました。
この本はそのイメージどおりの直球勝負。
本が好きでミステリが好き、という気持ちと魂が
こもってるなあと感じました。
学資が続かず伯父の古本屋に居候して日々を暮らす主人公。
とある日、その古本屋を訪れた女性は、彼に小説を探してくれないかと
頼んでくる。
破格な報酬につられて始めたその「探偵業」を進めるなかで、
彼は自分とその小説を書いた作家の半生ととある事件も追うことになっていく。
…合間合間にその探索され見つけられた小説が挿入されていて、
しかもその小説はリドルストーリー=結末のない話。
さらにそのあるはずのない結末がまた別に存在していて、章をかっちりと締めます。
実に、凝りに凝った構成。本好きミステリ好きの面目躍如ですね。
その小説そのものの古風な文体が醸し出す独特な雰囲気と話そのものの
面白さも十二分で中身をより濃くしています。
そしてもちろん物語全体を通してのストーリーにも「真実」が埋められていて、
五断章すべてを追った後に浮き上がったその姿は、
とても哀しいものではありますが、込められたその想いの温かさと深さには、
じわじわ、しんしん、と静かに心に沁みていくものがありました。
なんてまだるっこしいやり方だろう、
なんてどこまでも素直になれない人なんだろう。
そう苦笑を覚えながら想いつつ、「らしい」とも感じたのです。
主人公自身の行き詰まったような閉塞的な感情や身近な絶望は、
多少生き苦しくも感じたので、ちょっともっと元気出せよ、もう!と
思ったりしました。
彼の行動をおそらくはもうそれしかないとわかっていた道を取らざるを
得なくなる過程だと思い返して読んでみれば、
「ボトルネック」を思い出す甘くない描写だと感じました。
人生は、青春は、たまにあまりに厳しい瞬間、選択がある。
きりきりとそう思わされたのです。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌
投稿日:2009-10-24 Sat

この作者といえば「少女」です。
私には、そして多分いろんな方々にも
そういう印象が強いはずです。
そして、この作品はその少女を
これでもか、と描ききったお話だと
思えたのでした。
冒頭に示される一つの新聞記事。
それは少女の死体を少女が見つけたと伝える記事です。
そのふたりの少女が、だれと、だれなのか。
それはあっけなく示されて、
どうしてそうなってしまうのか、
それすらもわりと序盤で勘付けます。
だからコミカルなやりとりなのに常に感じるのは、緊張感です。
その結果へと突き進んでいく、どうしようもないそんな哀れな結末に
向かっていくふたりの姿が、ひりひりとちくちくと心を刺していきます。
どうしようもなく、他のすべなんて知らなくて、
彼女たちは彼女たちの知る「弾丸」をもって日常をたたかっていくしか
なくって、たとえそれが大人にはなんの効果も与えられなくっても、
そんなやり方しか知らなくて。
それが辛くて哀しくて可哀想なのですが、
けれど生き様は、弾を打ち続ける生き様それ自体は、
惚れ惚れするほどにカッコよくて可愛い。
その矛盾する面を抱える彼女たちは、だからこそ、とても魅力的です。
こんな「少女」っていう存在は、リアルとは違うのかもしれない。
けれどこんな純粋で脆い刃しか持たない「魂」は、
かつてわずかにでも持っていたかもしれないもので。
そしてもう持てないと知っているもので。
だからとても儚く、美しく、感じて、
たまらなく素敵に思えたのでした。


角川文庫のこの作者の本の表紙はどれもとてもステキv
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