千早茜「魚神」
|Posted:2012/01/29 22:08|Category : 読書|

かつて遊郭が栄えたものの、いまや時代の進化から取り残され、
デンキすらない停滞した時間が流れるその島に、
親を知らないふたりの美しい姉弟がいた。
姉を白亜、弟をスケキヨという。
お互いを強く想いかけがえない存在だと信じながらも、
とある過ちのためにお互いから離れてゆくが、その縁は、
到底無くせるものでは無かった…。
いつの時代ともしれない、どこともしれない、
そんな場所で起こる、夢のように幻想的で、地獄のように凄惨でもある物語。
時代も場所もあやふやで、生きる人々すらもどこかふんわりとしていて、
ただひたすら、白亜とスケキヨの互いを想う気持ちの強さだけが逞しく感じられます。
求めすぎるからこそ、近づけない。拒否をされたらと思うと、踏み出せない。
そのジレンマがじりじりと切なく焦げ付いていき、
やがて怖ろしい事態が招かれていく。
その、怖ろしいのに美しい、事件。
たちのぼる炎の揺らめきのような、圧倒される力を感じさせられながらも
惹きつけられてやまない、という。うっとりとした酩酊感を感じました。
伝説や台詞の言い回し、物事のひとつひとつの描写が、
さまざまなイマジネーションをかきたてる感じで、ほんと、惹き句ではありませんが、
デビュー作とは思えない巧緻さを感じました。
しかも好みです。素敵。
そして今まで他の作者の作品でも感じていた、独特の色気を感じさせる文章がまたよく
この作品世界にマッチしていて、盛りたてているように思いました。
中盤の白亜と蓮沼のあたりのエピソードはとりわけそういう意味でぞくぞくしました。
こういう関係も、エロティックでサディスティックで、良いものですね(超個人的に)。
…
一言で言えば退廃的で、ぬるま湯に浸かっているような世界の、
狂おしい思いが炸裂したひとときをえがいた、大人の御伽噺、とでもいうんでしょうか。
しあわせになりました、という結末だとはいえないラストシーンの余韻が
後を引きます。とろり、とその沼の感触を感じたままなようで。
素敵な物語でした。

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