投稿日:2009-07-03 Fri

MISSINGから始まって、
常に透明感のある文章で繊細な世界を
描いてきた本多さんの、らしくない…と
思わせておいて、実はらしかった、
簡単にいえば、そんな作品でした。
悲惨にいじめられていた高校を卒業して入り込んだ大学で、
新しい自分となって生きていく決意を固めた主人公。
準備も決意も計算もして臨んだ大学生活だったけれど、
実はいじめていた当人もその大学にいた。
…そうしてまた元の木阿弥に戻ってしまいかけたその危機を、
一人の青年が救う。
彼は、「正義の味方研究会」の一員だった……!
そんな出だしで始まって、
実に格好良い、正義の味方研究会略してセイケンの伝説と
勧善懲悪なる活躍が描かれていって、なるほど、
「こういうふうに過去を克服して生まれ変わっていく話なんだな」
と思っていたら、あらあらと中盤から毛色が変わっていきます。
正義、とはなんなのか。
何度も何度も繰り返されてきたその命題。
直面した主人公は、悩んで悩んで、ひとつの答えを見出します。
それには、えっ?と思えたのも事実です。
けれど、その思いの過程、泥臭いくらいにフツウな感覚から出た言葉は、
とても親近感があって、リアルでした。
「悪ではない」
言い切って自分の道を行くことにした主人公は、
不恰好だけれども、彼らしくあって、だからそれは間違ってない、と、
そう思えたのです。
今回の作品でのコミカルな文体は、作者の今までの作品とは一線を画していて、
「どうしたんだろう」ととても余計なことを考えたりもしました。
けれど読み終えると、後半の展開は、一筋縄ではいかない一癖ある感じで、
さすがにひとひねりを巧く使う作者らしいなと思えました。
単純に正義の味方活躍譚!にしたほうがよりわかりやすいし、
イヤな言い方をすればウケたかもしれません。
けれど、これだけコミカルにしながらも、あくまでリアルなひとりの想いを
大切に描いている目線の置き方が、作者らしくてとても素敵だなあと感じたのでした。
ミカタ、はあちこちのレビューでいわれてるとおり、
味方と見方のダブルミーニングなのでしょうね。
自分らしい正義の見方を貫いて、自分らしく正義に味方して、
生きていければ良いなあ!と、思います。


投稿日:2009-06-26 Fri

結構あちこちの本屋さんで目立つように
置かれていて、気になってた本です。
どんな感じかと読んでいきましたが…
まず思ったのは、
「裏表紙の粗筋展開ばらしすぎ!」でした。
過去に妻子を失った経験のために、医者からホームレスへと
身を落とした男。名前を捨て一切の希望も持たない生活を送っていたが、
身を落ち着かせた町で起こった殺人事件が、その状況に変化を呼ぶ。
さらにひとりの少年と出会ったことにより、彼は捨てた過去に呼び寄せられ、
刑事との奇妙な関係によって事件の真実をも探り始めていくが…。
…・・・そんな始まりから広がる、過去が大きなキーになっている作品。
主人公と少年の、それぞれが背負っている「十字架」による葛藤や煩悶、行動が、
物語を深く形作っています。
自分ではどうしようもない「結果」が厳然とあるために、彼らの想いはがんじがらめに
なってしまって前に踏み出せないし、殻に閉じこもってしまう。
けれどふたりが出会うことで、もはやどうにもならないと諦められていたことから、
解き放たれる。絶望しあっていた同士が、希望を見出す。
そんな一風変わった関係が軸になっていて、正直書いていて思うんですが、
軽く読める感じでは、なかったですね。一緒になって過去という井戸の底を覗き込まなければ
いけないようで。なにがあるのかは知らないけれど、暗くてにごったものがあるような
それを絶えず覗きながら読み進めるのは、ちょっと重たい気分でした。
で、ですね。
結構真剣に社会的なミステリなのは間違いないんですが、
「え?なんで」「それはないんじゃない」というような、
展開や設定やそんなのがところどころにあってですね、
読んでいてちょっとちぐはぐなように思えたのです。
最後の「真実」については、え、いきなり?とか、そんな二時間サスペンス的アイテム
出しますか、という部分もあったりして……
さらに最後にあっけなさ。
たったあれだけのやりとりで、彼らは本当に救われたんでしょうか……
とても重いテーマと作風なのですが、
作品としてみると、それを描ききった!というよりも、
それを題材にしてみました。というどこかとってつけた感じが、ぬぐえなかったです。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌
投稿日:2009-06-11 Thu

自転車ロードレースを題材に、
ミステリ的な側面も絡めたこの作品。
結構話題になっていた記憶があるんですが、
読んでみてナルホドと納得、です。
面白い、そして熱い!です。
自転車ロードレースのプロチームに所属する主人公は、
「エース」を勝たせる為にレースを走る「アシスト」という立場の青年。
彼とそのエースや同僚たちを中心に、レースを通じて見えてくる、
彼らの目標、意思、そして秘めた過去…それらをミステリ色をともなって
描いた物語です。
ツールドフランスという名前、そういう競技があること自体は知っていましたが、
それがどんなものなんてまったく知らなかったのに、
その世界は、読むうちにどんどん色付き肉付いて迫ってきます。
彼らの生きる世界のルールがこちらに浸透してきて、
彼らの想いが熱くぶつかってきて、なんだかドキドキしてきたりもしました。
余計な装飾をそぎ落としたシンプルな筆致、
説明を少なくして読みやすさを優先したような物語の運び方、
ボリューム的にはとてもコンパクトなのに、
読み終えたときの充足感はとても深いものがありました。
こういう世界があるのか、という新しい発見!をした気分で、
なんだか楽しくも感じたのです。
ただ、
タイトルの「サクリファイス」……
そのことばが意味する本当のこと、それそのものだけを取ってみると
ちょっとリアルではないと感じたのは事実です。
終盤にくるくると翻りながらついに明らかになる「真実」、
そのめまぐるしい過程にちょっと混乱したのもあって、
その人が実際に「どう」なのか、というところが見えづらくも思えたのです。
単純に言うと、「良い人なのか悪い人なのか」がよくわからないというか・・・
真実を前提にしたらそれは答えは明らかなんだけれど、
深く納得するには、人物をもっと描いて欲しかったなと思うのです。
それと昔の恋人と、車椅子の彼。
なんだか後味が悪いというか、まったく共感できなくて、
不快な感覚が残りました。
とくに恋人の女性は、いったいどこが素敵なのかがさっぱりわかりません…。
とはいえ、
知らない世界をこれだけ楽しませてくれた!というのは
とても嬉しい体験でしたので、もちろん読んで良かったと思います。


後日談もゼヒ読みたいところ。
テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌
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